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いつもガーゴイルのライブを観ていて思うことがある。それは「なぜ、この人たちはこんなにも輝いているんだろう?」ということだ。まるで体力の限界に挑戦するように、120%の力をフルスロットルで出し切っているメンバー。今年で結成19年となるのだが、彼らの輝きは年々増している。そこで、何が彼らをそこまで輝かせているのか、また自身にとってガーゴイルというバンドはどんな場所になっているのかを探るため、バンドのフロントマンであるボーカリストのKIBAに接触した。



自分がおもしろいと思ったら
他の人はどう思うか分らないけどやる



−ガーゴイルは結成して19年になるのですが、どんな気持ちに突き動かされて、ここまでやってきたのですか。

KIBA:長くなっていいですか?(笑) 最近よく思うんですけど、日本には希望が足りないと。僕は「何があるかは分らないんだけど、何かいいことがありそうな気がする」みたいなものが希望だと思ってて、そういうものが足りないんじゃないかな…というのを、特に2000年を超えてからよく思うんです。将来の目標みたいなものは見えているし、その筋道も見えているとは思うんですよ。「こうやっていけば、こんなふうな達成ができる」というのはね。でも、「そこには何があるかは分らないんだけど、何かいいことがあるんじゃないかな」という曖昧なんだけど、何か惹かれるものがない。例えば子供に将来なりたいものを尋ねても、昔は宇宙飛行士とかF1レーサーとか夢があったのに、最近はIT関係の会社の社長とかだったりする。確かにそれは成功だと思うけど、実現させるための具体的な方法が見える現実的なものだと思うんですよ。で、なぜ2000年を超えて急にこんなことを思うようになったのかを僕なりに考えてみたんです。戦後の日本って何もなかったわけじゃないですか。その時の欲求は「食べたい」という分かりやすいものだったと思うんです。そして、食べることが満たされたら、今度は「住みたい」となり、どんどん普通の生活に必要なものが満たされていった。そうなると次は時間が余ってくるので、それを埋めるために「大学に行きたい」って考えるようになって、さらに学園闘争をやってみたりもするけど、そこに答えは見つからなかったんですよ。その後もいろいろくり返していくうち、最終的に80年代の終わり頃のバブルに辿り着いて、そこで経済的に満たされようとした結果、バブルが崩壊してしまう。それでも、その後10年ぐらいは「また何かあるんじゃないかな?」みたいな根拠のない期待感があったんだけど、それもないってことが分ったのが、2000年だったんじゃないかと。だから、今の日本って「この先に何かいいことがあるんじゃないかな?」という希望が足りてない感じがするんですよね。

−バブルの頃は努力したら努力した分、もしくはそれ以上の見返りがあったけど、平成不況に突入してからは頑張っても報われなくなったじゃないですか。その絶望感が染みついているんですかね。

KIBA:それもあるでしょうね。バブルの頃って訳分らずに「もっともっとすごくなる」みたいな傾向があったじゃないですか。でも、ほんとは何もないものだから、すごくなるどころかバブル自体が弾けてしまった。それが今の希望の足りなさにつながっているんじゃないかなと思うんです。だから、僕がバンドをやっているのは、何か分らないけど、何かいいことがあるような気がするからなんですよ。「今やってておもしろいし、これからもおもしろいような気がする」というのが一番にあるというか。
 少し話がズレてしまいますけど、欧米って日本よりも失業率がすごく高いじゃないですか。なのに、休みを大事にしているというか、第一に考えている。それは何でなんやろって考えてて…いらんことを考えるのが好きなんでね(笑)。で、「これでかな?」と思ったのが、「個人的に自分が楽しいかどうか」というところに辿り着いたんじゃないかと。そういうことに欧米の方が先に気付いたんだと思うんですよ。仕事が全てってなるんじゃなくて、自分のために時間を使うようになった。そういう意味でも、僕がバンドをやっている最大の理由は“自分が楽しいから”だけなんですよ。


−そのバンドなのですが、元々は「バンドをやりたい」という強い気持ちがあって始めたものではないんですよね。

KIBA:そうですね。単純に「何かおもしろいことがしたいな」と思ってて…僕は大学を出たら映画監督になりたいと思ってたんですよ。だから、最初のメンバーの子に「バンド、やろうよ」って誘われて、学生の間だけ…それも1年ぐらいやれればいいと思って始めたんです。当時、大阪にバーボンハウスというライブハウスがあったんですね。そこに1年以内に出れなかったらヤメようと思ってたんですけど、思ってたよりも早く出れたんで、「これはうまくいくのかな?」と勘違いして、そのまま今もやってるという感じですね(笑)。

−ガーゴイルは結成当初からビジュアルにしても、サウンドにしても独創的で、他のバンドと明らかに存在感が違ってましたよね。その頃から他とは違うものをやろうと?

KIBA:あんまり音楽を分ってませんでしたからね(笑)。バンドがすごく好きで始めたわけではなかったんで、バンドの常識的なことが分らなかったのと、当時のバンドをやっている人を見て「それはないやろ!」と思ったというのがあるんですよ。それっていうのは、お金がなさそうで、ちょっと頭が悪そうで(笑)、外人の真似をしている。僕らはそんなにお金がないわけでもなかったし、そんなにバカでもなかった…バイトしてたし、普通に学生でしたからね。で、みんなが日本人が見た外人の真似をしているんだったら、僕らは「外人から見た日本人って所詮こんな感じやのに」みたいなものをやりたいなって(笑)。

−それがあの天草四郎のビジュアルになったと(笑)。当時のライブはシアトリカルな感じで結構作り込んでいたのですが、それはKIBAさんが映画監督を目指していたから、そういう表現のアプローチになったのですか。

KIBA:それもあるかもしれないですね。なぜ僕が映画をやりたいと思っていたのかというと、子供の頃からそういう芸術みたいなことをやってみたいと思っていたんですけど、いろいろ自分で芸術に触れてきた中で映画が一番総合的じゃないかなと思ったからなんですね。音楽も使えるし、あらゆる芸術を集約して使えるというか。それはバンドでも…例えば僕が音楽をやるとなったら音楽しかできないんですけど、それがバンドという形態になった時点で、総合的にいろいろできると思ったんですよ。映像を使うこともできれば、シアトリカルな物語性を作ることもできるから、映画でやりたかった総合的な表現がバンドでもできるんじゃないかと。で、ちょっとやってみようかなと思って、いろいろやってみたという感じですね。

−サウンド面では? ヘビーメタルをベースにしつつも、和太鼓が入ってあったりして、そこでも独創的なものが作られていたのですが。

KIBA:僕は音楽のことはあんまり分らないんですよ、未だに(笑)。でも、他の楽器を入れるというのは、僕がアイデアを出していたんです。元々のサウンドコンセプトは他のメンバーが作ってるんですけど、それに基づいて作られた曲を聴いて「これにこんなの音が入ってたら、それっぽくなるんじゃない?」とか言ってたら、音楽を知っている人にとっては常識的じゃないことだったみたいで(笑)…だから、そんなに深い意味はなかったんですよ。

−でも、そのKIBAさんのアイデアが他のメンバーには刺激的だったんでしょうね。

KIBA:そうみたいですね。でも、みんながやってることと同じことをやっても仕方ないわけだし、僕らは自分たちにしかできないことをやってればいいんじゃないかなって思ってましたね。受けるとか受けないとかじゃなくて、それがやりたかったんですよ。


−結果、インディーズでありながら渋谷公会堂を売り切るぐらいの人気を博したわけですが、その実感はどんなものでしたか?

KIBA:評価を受けたのはうれしかったですね。きっと音楽を好きな人というのは…もちろんみんながそうではないと思うんですけど、憧れのミュージシャンがいて、その人のようになりたいというの気持ちがあると思うんですよ。でも、僕らにはそういうのがなかったんです。ちょっと話が逸れるんですけど、映画監督になりたいと思った時に、ほんとに自分は映画監督になれるかどうかというのを考えたんですね。映画というのはドキュメンタリーとかいろいろな種類があって、さらにエンターテインメントとしての部分も大事なわけなんですけど、そういうものをゼロから作るんだったら、他の人が持っていないような何かの才能を持っていないと作り手として成立しないんじゃないかと思ったんです。で、自分には何があるのかを高校生なりに考えたんですけど、他の人よりも特に何か優れているものがあるわけじゃないから、「どうしよう?」ってなったんですよ。それで出した答えが「自分だけがおもしろいと思うものを作れば、それは自分にしかできないことだ」というものだったんです。バンドもそういう感じなんですよ。他の人にはない何かを持っていないといけないけど、それがないのだったら、自分にしかできないことをやればいいんです。他の人がやっててカッコいいからって僕らも同じことをやったところで、その人よりもカッコいいものはできないだろうし、自分がおもしろいと思ったら、他の人はどう思うか分らないけどやる…というか、そうじゃないといけないような気がする。

 
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